凛としていた―

初めて言葉を交した時に見せた笑顔は柔らかくとても自然で。


そしてその場所に居た俺だけが手を差し出され握手を求められた―



grow strong





「だからあなたにお願いしたくて」

「―それでか」

「あなたの手を見て強いと思ったの」

「・・・少し考えさせてくれないか」

「面倒くさいですか?」

「そうゆう事ではない」

「では」

「自ら危険な事をする必要は無い筈だ」

「―・・・・そうでしょうか」

「それに君に教える理由が見つからない」




「―分かりました」

顔を上げ物怖じすることない真っ直ぐな瞳

「理由持って来ます、そうしたらもう一度改めてお願いしに来ます」

ペコリと頭をさげ颯爽と駆け出していってしまった





事の結末を引き伸ばしはできたけれど
あのままじゃ絶対に断られていただろう

「理由、か・・」

でも、自分は誰かの仇撃ちがある訳でもなく
名声が欲しい訳でもない

争いに身を投じなくとも生きていく術はあるけれど

「何もやれないのが嫌なのよ」

護ってもらうよりも、むしろ護りたい
それって傲慢だろうけど


ブツブツと一人で頷きながらあれやこれやと用事を片付け何気なく
外に目を向けると太陽が山と溶け合い夕闇が迫る時刻になっていた

「もうこんな時間」

そういえばヴァン達と食事をしようと待ち合わせをしていたのだ
ノノに声をかけシュトラールを出で街に向かって歩き出す








賑わう商店街、行き交う人々。
それぞれ目的があって歩いていて、その中を掻い潜る様に進んでいく
まるで同じ場所を歩いているように思えるのは人に酔ったためか。

大きな道から少し外れたその場所に身を置いて
ここから如何行けばいいのか辺りをキョロキョロと見回す





「人多すぎるわ」

口を尖らせ壁にもたれ掛かりながら傍観しているとため息が出てしまった

「いい歳して迷子っていうのかな、これは」

連絡をとる手段もなく言われた場所に行くしかないのに
自分が何処に居るのかさえ把握できない

「とりあえず、右に行ってみよう」





それから人にぶつかりながらも何とかそれらしい場所に来てみたものの
川の様な人の流れに逆らえず交差する中洲に取り残された。

目を配らせてみても見覚えのある姿は見当たらない

「もう、何。皆何処にいるの」

ぐったりしたように肩を落としていると
見知らぬ男が楽しそうに話しかけてきた

「どうしたの、君。何か困った事でもあった?」

その言葉の口調からして善意ではなさそうだ。


「急いでるんで」

自分では顔に出してるつもりなのに
そうは言ってもお構いなしという素振りでしつこく話しかけてくる

「ね、ちょっと位いいじゃん」

ぐいと腕を強引に引っ張られ声を上げる

「っちょ、離してっ!!」

身を挺して抵抗しても男の力は意外に強くて
逃げようにもこんな街中で護身用の剣を抜く事も出来ない

反発するの手に余計に強い力が加わり連れて行かれそうになった直前―
男の腕をひねり上げ庇うように隔たれた大きな背

「そこまでだ」

「?!―バッシュ」

突然の事で男は倒れこむようにして一目散に逃げ出し雑踏の中へと消えていってしまった

身を返し向き合ったバッシュが私の腕を心配した表情で見ていた

「大丈夫か?」

「ええ、赤くなっただけだから。それより本当にありがとうございます」

人ごみの真ん中で頭を思いっきり下げてお辞儀をした。

「礼はいい場所を移そう」

そう言って連れて行かれたのはヴァン達と待ち会わせの場所だった








「遅いぞー、それにバッシュもさー」

「済まなかった」

「遅れたのはヴァンの説明不足よ」

「ははーん、もしかして迷子になったんだ。恥ずかしいな」

「・・・・・覚えてなさいヴァン」

訝しげな顔をしていた私の手をそっと触れたのは近くに座っていたフラン。

「どうしたの?赤いわ」

「えっと、実はさっき・・―」

事の経緯を説明しもう一度バッシュにお礼を言った



「無事で何よりだわ」

「そうね。でも自分じゃ何も出来なかったから」

今日はたまたまバッシュが居たからであって、いつもこうはいかないだろうし

「だったら俺が教えてやろーか?これでも結構闘えるんだゼ!」

「ヴァンが教えてくれるの?」

「何だよ、その意外そうな顔」

「そう言ってくれるなんて思わなくって、嬉しいわ」

はにかんだ笑顔を見せ互いに照れたヴァンとの間に水を差すようにバルフレアが割って入る

「やめとけよ、こいつはまだ半人前だんだ。それならバッシュが適任だろ」

「あ、、、、、でもね、私」

これでも一度断られているんですとは中々言えず話は進んでいく

「助けてもらったんだ、これも何かの縁だと思えよ。それに剣の腕は一流だ」

そうだろ?と言いながらそちらを向くバルフレアにバッシュは顔を上げる

「俺は構わないが」

「―っえ・・・・・・・・・」

「だとよ、後は次第だろ」

「本当に、いいんですか?」

「ああ」

「あ、ありがとうございます!」







つい嬉しくて食事中浮かれてずっと喋りっぱなしだった。
チラリとバッシュを見てみると浮かない表情をしている。

「それはそうだよね」

一度は断っている事なのにきっと否応無しに引き受けたのだろう
そう考えると複雑な気分になった

食事を終えてお店を出ても表情は変わらないままのバッシュに意を決して話しかける

「あの、バッシュ」

「・・・・・・・・」

「バッシュ」

「―、、、、ああ、済まない何だ?」

「さっきの話ですけど、私自分で何とかします。だからいつも通りでいて下さい」

「??どういうことだ」

「さっきの事です。浮かれているのは私だけで、バッシュが沈んだ顔をしていたから」

「それは誤解だ。どう教えたらいいものかと考えていた」

「あの、本当に?」

「ああ、教えよう。だが甘やかすつもりは無いぞ」

「バッシュありがとう!あの、遅くなってしまったけど私の理由」

「そうだな聞いておこう」

「自分を守る力が欲しいんです」


握り締めるその手は、初めて会った時とは違い強く感じた。


華の様な笑顔と吸い込まれそうな瞳
それほどまでに鮮やかな女性がこの世界にいる事を俺は知らなかった―